『夏井いつきの365日季語手帖 2020年版』

『夏井いつきの365日季語手帖 2020年版』

夏井いつき

 

しめかざりして谷とほき瀑の神 飯田蛇笏

目出度さもちう位也おらが春 小林一茶

谷間谷間に満作が咲く荒凡夫 金子兜太

葬送の春霙少し嬉しい 薄荷光

春の川屠場ありしは言はぬまま 美奈子 

退屈なガソリンガール柳の芽 富安風生

花鳥に何うばはれてこのうつつ 上島鬼貫

かりがねの帰りつくして闇夜かな 村上鬼城

しわくちゃな朝を延ばして燕くる 宙のふう

来しかたや馬酔木咲く野の日のひかり 水原秋桜子

浪かげに生るゝ芥弥生尽 吉岡禅寺洞

恋のなやみもちメーデーの赤旗を見まもる 橋本夢道

文学部棟に一〇〇ウォン拾う初夏 調布亭豚勝

夜振の火捨てて戻りぬ草の雨 原月舟

虫抱いて蜘蛛しづかなる夕かな 小澤實

だんご虫死す墓標は雲の峰 山澤香奈

天道虫目の後方に目の模様 高橋白道

指輪なき指を浸せり夏の水 野澤節子

空へゆく階段のなし稲の花 田中裕明

虫の夜の鼓膜のような大扉 高野ムツオ