自習室の隅っこ
高校を卒業してから、読書と司法試験の勉強をしながら、僕の心の中には「岡山から飛び出したい」という思いが強くなっていた。岡山は「晴れの国」と呼ばれるほど気候も穏やかで、食べ物も美味しい。人も温厚だ。だけど、僕にはその穏やか […]
落語漬けの四年間
落語の世界にも、学生が全国から集まり腕を競う“甲子園”のような大会がある。その名も「全日本学生落語選手権・策伝大賞」。これは「落語の祖」と呼ばれる安楽庵策伝を記念し、2004年から岐阜市で始まった大会だ。北は北海道、南は […]
効率と伝統
大学に入学したばかりの頃、私はまるで未知の世界に足を踏み入れたような心持ちで、広いキャンパスを歩いていました。そんなある日、学生たちが路上で小冊子を販売している光景に出くわしました。その小冊子には「教員教務逆評定 一冊三 […]
二つ目、未完成。
前座から二つ目に昇進した日のことは、今でも忘れられません。兄弟子とともに昇太師匠の家に呼ばれ、師匠は無言で手を差し出しました。静かな握手――それが昇進の合図でした。昇進の際、昇太師匠から「笑橋はどうだ?」と名前の改名を提 […]
せめて高座の上で
僕は、毎日が楽しく過ごせれば、それで満足だ。落語というのは、江戸時代から伝わる「しゃべるだけの伝統芸能」だ。刀も持たず、扇子一本で世の中を斬る。いや、斬れたためしはない。むしろ、たまに自分の指を切りそうになる。そんな、あ […]
岐阜で騙される
学生時代、僕はボランティアで高齢者施設を回って、落語を披露していました。ある日、岐阜の施設での落語会に呼んでもらえることに。会場に着いてみると、他の出演者はなんと全員が本物のプロ落語家とお囃子さん。僕だけが学生という、い […]
明大前から浅草まで
前座時代、とにかくお金がありませんでした。バイトもできず、もらえる「ワリ」は一日に千円札一枚。文字通り、その一枚を握りしめて暮らしていました。交通費さえ惜しいので、明大前から浅草演芸ホールまで歩いて通っていたんです。まず […]
覚悟で乗り切る徹夜稽古
落語界って、ちょっと不思議な世界です。自分の師匠だけじゃなく、いろんな師匠から芸をタダで教わることができる。……いや、これ、普通の社会では絶対にありえないことですよね。だって、ベテラン社員が他社の新人にマンツーマン指導な […]
スナックでマイケル・ジャクソン
落語界には、時々「本物だ」と思わず唸る師匠がいます。林家たい平師匠――『笑点』のオレンジ色のあの方。そのタフさと、芸人魂の底力は、僕の人生観を大きく変えてくれました。ある年、函館でたい平師匠の独演会がありました。師匠が別 […]
「プリン買ってこい」
新宿の伊勢丹の近くに、落語ファンの聖地「末廣亭」があります。終戦直後から続く老舗の寄席で、月末には「余一会」という特別な日があるんです。この日ばかりは、普段は一緒の高座に並ばない、落語界のスターたちが大集合。まさに夢のオ […]