“スラスラ”じゃなく“チャーミング”

僕が「落語家になってよかったなあ」と感じる瞬間はいろいろありますが、その中でも忘れられないのは、志の輔師匠の舞台を袖で見せていただいたときのことです。場所はパルコ劇場。三時間、まさに志の輔師匠の独壇場。袖で見ている僕も、 […]

“オー!”が言えなかった僕

大学三年生の春、僕も一度は「普通に就職しようかな」と考えていた時期がありました。東大の落語研究会には入っていたものの、プロの落語家になろうなんて、最初から決めていたわけではありません。「なんとなく、面白いことができたらい […]

「声がいい」──そのひと言が僕の背中を押した

「お兄さん、声がいいね」。たった一言の何気ない褒め言葉でしたが、私はその言葉に背中を押されるようにして、人生の舵を大きく切る決心をしました。 私が落語のボランティア公演を始めたきっかけは、学生落語の大会「策伝大 […]

らくごを触る――ユニバーサル落語絵本づくり

私が上京する前、テレビで見た一本の特集番組がずっと心に残っていました。赤塚不二夫さんが、あの名キャラクター・ニャロメを使って、点字絵本を制作していたのです。目の見えない子どもたちにも楽しい世界を届けたいという思いに、私は […]

「落語家、俳句で食いつなぐ」

二〇二〇年の春。人々はマスク越しに不安と閉塞感を分かち合い、日常のほころびを縫い合わせるのに精一杯だった。外出自粛、寄席も中止。落語家にとって、こんなにも“声”を持て余す季節があっただろうか。 だが、そんな最中にも『プレ […]

「ほくろが増える夜」

昔、『酔いの口ワイド』というネット番組があった。タイトルの通り、夜な夜な街をさまよい歩き、美味しい酒を飲みながら食レポを繰り広げる、というコンセプトだ。僕が二つ目になりたての頃だった。出演者は僕、落語協会の兄さん(仮名: […]

「もう少しで笑いそうになりました」

春のやわらかな日差しが車窓を照らしていた。私はスーツケースを膝に抱え、駅からタクシーに揺られている。今日訪ねるのは、私が落語家を志すきっかけになった盲学校だ。大学時代、盲学校でボランティアをしたことが、人生の方向を大きく […]

「親の反応、10秒フリーズ」

昇太師匠に弟子入りする前、「親には話してあるのか」と聞かれたとき、思わず「ハイ、伝えてあります!」と即答。嘘です。うちの親は、昭和のホームドラマから抜け出してきたようなのん気な性格。就活でも「どこの会社に行くの?」と聞か […]

「喫茶店30センチの奇跡」

三度目の挑戦となった策伝大賞。どうしても、今回は優勝したい――そんな強い気持ちを胸に抱いておりました。二年目に「子ほめ」でファイナリストまで進んだ経験が、自分の中の火をさらに大きく燃やしていたのです。ところが、なかなか演 […]

「エッグベネディクトより孤独のほうがまし」

僕がエッグベネディクトを初めて食べたのは、都内のホテルの一階にあるカフェだった。日曜日の朝、時計の針はまだ九時を少し過ぎたところだった。僕は前の晩にあまり眠れなかった。いろいろと考えごとをしていたからだ。でも、睡眠不足の […]