『私をくいとめて』
① 点滅する電球
「みつ子の世界のチューニングの乱れ」
それまでのみつ子の世界=
一人暮らしで完結した、安定していて、他人に合わせなくていい空間。
多田くんがその電球を取り換えてくれる。
「他人が入り込むことで乱れた世界」
→「他人の存在を受け入れることで、別の形の安定にチューニングし直す」
「ひとりの世界をどうチューニングし直すか」
② ひとりに二つの声のホーミー
Aみつ子+A(脳内の声)
体はひとつ、声はふたつ。
外側に見えている「社会に見せるみつ子」と、
内側でブツブツしゃべり続ける「ほんとの声=A」。
B階下から聞こえるホーミー&生活音
一人のはずの部屋に、他者の気配が「音」として割り込んでくる。
これもまた「ひとり世界に複数の声が鳴る」状態。
「ひとりで完結していたはずの世界に、別の声が混ざってきてしまう不安」
③ 大九監督×綿矢りさの期待値
『勝手にふるえてろ』
のんというキャラクターの力
みつ子が人に対して勝手に像を貼る/剥がす問題と平行
みつ子 → 人に理想像を貼って苦しくなる
観客 → 大九×綿矢コンビに『勝手にふるえてろ』像を貼る
「期待値のチューニング」
④ 可変式のテーブル
1人用にもなるし、2人でも使える。
「2人で使わなきゃいけないもの」でもないし、
「1人じゃ使っちゃいけないもの」でもない。
「ひとりで生きる」もOK
「誰かと生きる」もOK
優劣ではなく、“モードの切り替え”にすぎない
一人でしか見られない景色
二人じゃないと見られない景色
可変式テーブルは、その“両方を持ってていい”という柔らかさの象徴
⑤ 歯医者の一件:自分の思いと他者の思いの齟齬が怖くなった
「チューニング恐怖症」誕生の原点。
みつ子側の認識→ 「本気で好きになってくれる、ちゃんとした年上男性」
相手の本音→ 「都合の良い不倫相手としてキープしたいだけ」
「自分が“こう思われているはず”と信じていた像が、完全に勘違いだった」
「自分についての“認識”そのものが信用できなくなる怖さ」
他人とチューニングしようとするより
A(自分の中の声)だけを信じて、世界を完結させた方が安全
という方向へ
多田くんと近づくことは
「また、自分の認識がズレていると突きつけられるかもしれない」
恐怖と直結。
⑥ 澤田や皐月への「勝手な像」と、チューニングの楽しさへの気づき
みつ子の「勝手な像」
皐月「どこにでも行ける」「どこでも生きていける」強い女
澤田 近寄りがたい堅物上司、怖い人
自分の世界を守るために、他人をラベル付けして固定している
皐月→ 実はイタリアまで来たのに、カフェより先に一人で行けなくなってしまうほど不安定。「こっちもこわいんだよ」と吐き出す存在。
澤田→ 結婚もして、ちょっと抜けているところもあり、意外と人間味のある人。
ここでみつ子は、「人と関わることで“像が崩れる”のは、
必ずしも悪いことじゃない。むしろ面白い。」
「他人とチューニングしていくこと=怖いだけじゃなく、楽しいプロセスなんだ」
この気づきがあるからこそ、
多田くんとの関係も
ズレも含めて、一緒にチューニングしていく相手として受け入れられる
電球・ホーミー・テーブル → 世界のチューニングを示す「モノ」の記号
歯医者のトラウマ → チューニング恐怖症の起点
澤田&皐月 → 「他人とチューニングするのって、実はちょっと楽しいかも」という再発見
大九×綿矢&『勝手にふるえてろ』 → 観客側の「勝手な像」も揺さぶるメタ構造
孤独と共存
他者との共存はなぜこんなにも困難なのか
孤独という「自然状態」
主人公は決して不幸ではない。むしろ幸福である。
一人暮らしは自由の楽園
みつ子が抱える孤独は、
欠如ではなく、むしろ満ち足りた完全な円なのだ。
だが、完全な円は閉じている。そこに他者が入り込む余地はない。
みつ子の世界は内部で二重化している。
自分
自分の中の相談相手(A)
「自己完結した内部対話の世界」
電球が点滅する
家具が揺れる
外界の音が侵入する
齟齬の恐怖
他者とは決して完全にはわかりあえないという恐怖である。
主体と他者の認識の非対称性の発見
自分は好かれていると思っていた
→ 実際は都合のいい女として扱われていた
「一人でいた方が安全だ」
他者は「像」ではない
「自分の見ている他者像は仮構である」
自分が見ている「他人」は、その人そのものではなく、
自分が勝手に作った映像にすぎない。
この気づきによって、
他者は脅威から可能性へと変わり始める。
孤独は前提、共存は選択
■孤独の克服ではない。
むしろ
■孤独を前提としたうえで、他者と関わる可能性を再び引き受ける物語
孤独を抱えたまま、
おそるおそる他者に触れてみる。
ひとは一人で完結できる
だが、それでもなお
他者と世界を共有したい瞬間が訪れる
その瞬間に必要なのは勇気ではなく、
可変性とチューニングである
みつ子の変化とは
ヘタに強くなることでも、孤独を否定することでもなく、
世界の複雑さを引き受ける覚悟の獲得
