47.明烏

日本橋田所町三丁目に店を構える日向屋の若旦那・時次郎は、十九歳。真面目一本槍で、部屋に籠もって本を読むばかりの堅物。父の半兵衛は、「商家の跡取りが世間知らずでは客商売が務まらない」と心配し、町内でも有名な遊び人・源兵衛と太助に、密かに息子を吉原に連れ出して“世間勉強”をさせてほしいと頼む。費用はすべて店持ち。遊び人の二人は大喜びで引き受けた。

しかし堅物の時次郎に「吉原へ行こう」と言っても絶対に断られるため、二人は策を弄する。「初午のお稲荷さんに泊まりがけでお参りしよう」と嘘をついて誘い出したのである。小遣いまで渡され、時次郎はすっかり本気にして二人と出発する。

やがて吉原の大門に到着。派手な空気に戸惑う時次郎は「ここは神社には見えませんが…」と不安がるが、二人は大門を「黒い鳥居」、見返り柳を「ご神木」、茶屋を「巫女の詰所」と次々誤魔化して押し切る。とうとう店に入ると花魁たちが姿を現し、ここが吉原と悟った時次郎は大混乱。「帰ります!」と泣き出す始末。

そこで二人はさらに嘘を重ねる。「吉原には決まりがあって、入った人数と出る人数が違うと番人に捕まって散々な目に遭う。帰りたきゃ帰ればいいが、知らねぇぞ」。時次郎は純粋すぎるがゆえにこれを真に受け、観念して店に留まることになった。

やがて時次郎は、美貌の花魁・浦里の部屋へ押し込まれる。その“うぶさ”が浦里の目に留まり、時次郎は思いがけず一夜を共にすることとなる。

一方、源兵衛と太助は散々で、どちらも花魁に振られたまま朝を迎える。二人は「若旦那もどうせ泣いているだろう」と様子を見に行くが、時次郎はすっかり骨抜きにされ、布団から出ようともしない。

「若旦那、今日はもう帰りましょう」と促しても、

「花魁が私の手を離してくれないんです。」と色を含んだ返事。

呆れ果てた源兵衛と太助は、「じゃあ若旦那、ゆっくり遊んでください。俺たちゃ先に失礼しますよ」と帰ろうとする。

すると布団の中から一言――「帰れるものなら帰ってごらんなさい。大門で止められますよ」

 


“真面目すぎる者が一度タガが外れたときの滑稽さ”

・堅物すぎる若旦那
・世話焼きの父親
・調子のいい遊び人二人
・花魁

この四者が織りなす“価値観の逆転劇”が、この噺の面白さ。

特に若旦那が“泣いて帰りたい → 一晩で虜 → 帰りたがらない”へと変化する落差は、人間の本性や未経験の世界に触れたときの劇的な変化を笑いに昇華した名場面。

“江戸の価値観×人間の可笑しさ”が見事に結晶した噺である。