何をしても裏目、女房にも見放され、ついに死のうとした男の前に、肋が浮くほど痩せた老人が現れる。

「わしは死神。お前はまだ寿命ではない」。死神は奇妙な理を授ける

――病人の傍らには必ず死神が座る。足元にいれば未だ寿命に非ず、呪文「アジャラカモクレンテケレッツのパー(手を二つ)」で追い払えば病は癒える。枕元にいれば寿命、決して手を出すな。

男は半信半疑で医者の看板を上げると、日本橋の大店に呼ばれる。見ると死神は足元、教えられた通りに唱えると死神は霧のように消え、主人は忽ち快復。

男は名医ともてはやされ、次々と重患を救い、金と快楽に溺れる。

そんな折、またも大店から懇請、しかし、死神は枕元に座っている。「一月延命で千両」と言われ、禁を承知で男は店の者に布団の四隅を持たせ、一挙に180℃回転し頭と足を入れ替え、瞬時に呪文。死神は消え、主人は持ち直し、千両の約束も固い。

帰途、最初の死神が現れ咎める。「枕元には手を出すなと言ったはず」。死神は男を洞窟に誘う。無数の蝋燭――各々が人の寿命。死神は、先ほど救った大店の寿命とお前の寿命が入れ替わったと、今にも消えそうな短い蝋燭を指す。「助かりたければ、この新しい蝋燭に火を移せ」。焦り、震える手。火は揺れ、移らず、男はかすれ声で「ああ、消える……」。

 

 

生の裁可を他者(死神)に委ねた人間の欲望譚

与えられた規則に従えば救える、という“他律の魔法”に酔い、やがて禁忌と抜け道で自滅する。

滑稽から怪異への転調:前半の軽口(呪文・成り上がり)が、後半の洞窟の静謐と対照をなす。

成功と同時に寿命が“スワップ”される構図。