38.お見立て

江戸の吉原にある花魁・喜瀬川のもとへ、田舎の大金持ちで純朴な男・杢兵衛(もくべえ)が通っていた。しかし喜瀬川は、この田舎者の客を心底嫌っており、次に来たら「病気で逢えない」と追い返すよう、店の男衆・喜助に命じる。
 やがて杢兵衛がやって来る。喜助は言われた通り「花魁は病で伏せっている」と伝えるが、杢兵衛は「オラのために病になったのか、気の毒だ。見舞いに行く」と言い出す。慌てた喜助は引き返し、喜瀬川に報告。「それじゃ死んだことにしな」と花魁は平然と答える。喜助は渋々ながら、「恋煩いの末、涙を流して息絶えた」と涙ながらに嘘を伝えると、今度は杢兵衛が「それなら墓参りに行く」と言い出す。
 再び困った喜助は花魁に相談。すると「適当な墓に案内しな」と言われ、仕方なく近くの三谷の寺へ連れて行く。寺では見ず知らずの墓を「これが喜瀬川の墓です」と偽り、花や線香を供えるが、墓碑銘を読まれて「安門養空信士」とある。杢兵衛は「信士!?男の墓じゃねぇか!」と驚く。慌てた喜助は別の墓を示すが、それも「陸軍歩兵上等兵」と刻まれている。
 次々と嘘がバレ、怒り出す杢兵衛。「いったい本物の墓はどれだ!」と詰め寄ると、喜助はついに観念し、「えぇ、ずらりと並んでおります。よろしいのをお見立て願います」。

 

滑稽の本質:人を騙すはずが、次第に自分が追い詰められるという「嘘の連鎖」。

江戸の言葉遊び:遊郭での「お見立て(遊女選び)」と「墓選び」を重ねる洒落の構造。死と色、聖と俗の境界。