30.桃太郎

父親が寝つけない金坊を寝かしつけようと、「昔々、あるところに――」と『桃太郎』を語り出す。ところが金坊は「昔っていつ?元号は?」「あるところってどこ?」「爺さん婆さんの名前と年齢は?」と理屈を立てて次々に割り込み、話は一向に進まない。父は強引に物語を押し進め、桃から生まれた桃太郎がきび団子を携え、犬・猿・雉を従えて鬼ヶ島へ、宝を持って凱旋――と結ぶが、金坊は「そんな粗い語りで眠れない」と切り返す。逆に金坊が講釈役となり、「『昔々』『あるところ』は普遍性の装置」「爺と婆は本当は父と母、山は“父恩は山より高く”、川(本意は海)は“母恩は海より深し”の寓意」「桃生まれは子は天与の授かり物」「犬・猿・雉は仁・智・勇の三徳」「きび団子は質素倹約の戒め」「鬼は世間という苦労の総称、鬼ヶ島は渡世の荒海」「宝は信用」と解き明かす。人は贅沢に溺れず徳を養い、働き、親に孝養を尽くすことで“鬼”を退け、宝を郷里へ持ち帰るのだ――と熱弁しているうち、今度は父が気持ちよさそうに寝落ち。金坊は父の寝顔を見やり、「親ってのは、罪がないね」とぽつり。

 

 

“ズレ”の笑い:父の雑な語りと子の過剰な教養、両極のミスマッチが滑稽を生む。

教養の価値:知識は相手を黙らせるためでなく、物語を豊かにする。