25.道灌
八五郎がご隠居の家へ遊びに行くと、貼り雑ぜの屏風に一枚の絵。ご隠居曰く、それは戦国の武将・太田道灌の「山吹の里」の場面。狩りの帰りににわか雨(村雨)に遭った道灌が、雨具(蓑)を借りに粗末な家を訪ねると、若い娘が山吹の枝を盆に載せて差し出した。道灌は意味が分からず呆然。だが家臣が、「七重八重 花は咲けども 山吹の 実のひとつだに なきぞ悲しき」という古歌を引き、「実(み)」と「蓑(みの)」を掛けた“貸せる蓑は無い”という婉曲な断りだと解き明かす。道灌は自らの教養の浅さを恥じ、のちに歌道に励んで大歌人となった――これが絵の由来だとご隠居が語る。話に感じ入った八五郎は、その歌を書き写してもらい、「雨のたびに雨具を借りに来る奴(=道灌まがい)」をこれでやり込めようと画策。ちょうど雨が降り、友達が飛び込んで来るが、借りたいのは雨具ではなく“提灯”。八五郎は無理やり「雨具を貸してくれと言え」と言わせてから女形めかして歌を詠むが、調子っぱずれで「山伏の…味噌ひと樽…」と崩れる始末。「歌道に暗れえな」の言葉に、友達は呆れて一言、「角(かど)が暗えから提灯借りに来た」。
教養の機知:古歌の引用。“間接話法”的やんわり断りの美。
江戸のズレ笑い:教訓を実地応用しようとして、滑る構図。
言葉のリズム:格調高い和歌と八五郎の駄洒落・都々逸崩れの対比が生む落差の笑い。
学ぶ姿勢の風刺:道灌は“知らぬを知る”から大成、八五郎は“知ったつもり”で転ぶ――学びの姿勢を軽やかに皮肉る。