23.子ほめ
八五郎がご隠居の家へやって来て、開口一番「ただの酒を飲ませてくれ」。実は「灘の酒」を聞き違えただけだが、図々しさにご隠居はあきれつつも説く。
「本気でただで飲みたいなら、お世辞のひとつも言わなきゃダメだよ」。コツは二つ。大人には年齢を 低めに見積もって若く見える と言う。さらに“子ほめ”の定型句も伝授——「栴檀は双葉より芳し、蛇は寸にしてその気を顕す。亡くなったお爺さんにそっくり、長命の相がございます。私もこういうお子さんに、あやかりたい」。
勢いづいた八つぁんは実地練習へ。道で会った大店の番頭に早速お世辞をかますが、肝心の「若く見える」を、「四十? とても四十には見えない、四十五六だ」と言って激怒される。大人相手は難しい——ならば子どもだ、と友人・竹さんの家へ。
生まれたばかりの赤ん坊を褒めるはずが、まずは昼寝中の祖父を赤子と取り違え、「産まれたてにしては頭がはげて皺だらけ」などと大暴走。
赤子の前でも「猿みたい」「これ茹でたのか」と口が滑る。ようやく「人形さんみたいだな」と名文句が出て、親はにっこり——の直後に「腹を押さえたらキュッキュッ言うで」と再び台無し。
最後の切り札「年齢を聞く」に打って出ると、竹さんは「今朝生まれたばかりだよ」。八つぁん、ここでもうっかり、「一つかい? どう見ても“タダ”に見える」。
言葉は潤滑油にも刃にも:お世辞は社交術だが、観察と配慮がない「型の丸暗記」は逆効果。
“型”と“間”の喜劇:教わった定型句(型)を、状況判断(間)なく乱射するズレが笑いを生む。
江戸の世知と人情:ただ酒を狙うちゃっかりさも、結局は憎めない人間味として描かれる。