17.牛ほめ

与太郎は世間から“間抜け”と呼ばれる青年。父親は息子の愚かさに手を焼いていますが、親戚の佐兵衛おじさんが新築したと聞き、「今度こそ与太郎を見直してもらえる好機」と考えます。

父は与太郎に新築祝いの口上を伝授します。

家は総体檜造り

天井は薩摩の鶉木目

壁は砂摺り

畳は備後の五分縁

庭は御影石造り

さらに、台所の柱にある「節穴」に気づいたら、こう言えと教えます。
「ここに秋葉様(火防の神)の札を貼れば、火除けにもなり、穴も隠せますよ」
これで小遣いがもらえるだろうと。

ついでに「伯父さんの飼っている牛も褒めろ」と、褒め言葉を教えます。
「天角地眼一黒直頭耳小歯違(てんかくちがん いっこく ちょくとう じしょう はちがい)」
これは菅原道真が愛した牛の特徴を表す最高の賛辞だと説明されます。

与太郎は練習するも、言葉を「薩摩芋に鶉豆」「砂摺り」を「カカァのおひきずり」などとトンチンカンに覚えてしまいます。やむなく父は紙に書いて持たせます。

おじの家で、与太郎はカンペを頼りに何とか口上を成功させ、さらに節穴の件を提案すると伯父に褒められて小遣いを得ます。調子に乗って牛も褒めに行きますが、おしりの穴をみて、

「ではここにも秋葉様のお札を貼ってはいかがでしょう。穴が隠れて屁の用心になります」

 

与太郎のとぼけた学びと失敗
 父に教えられた言葉をまともに覚えられず、的外れな発想で突き進む与太郎。

 ・「穴に札を貼れ」という一見もっともらしい理屈が、牛の尻にまで転用される滑稽さ。
 ・教えられたことを機械的に繰り返すだけの与太郎が、思わぬ方向に“応用”してしまう意外性。


「愚直で世間知らずな与太郎が、与太郎なりの論理で世界を解釈してしまう可笑しさ」