稽古の延長線
「二つ目になったら、日本舞踊に講釈、三味線と唄、さらに歌舞伎鑑賞、それに俳句をやったほうがいい」
山本進先生から、そんなふうに教えていただいたのが、二つ目になったばかり頃だった。
すべて、落語に通じるお稽古。なるほどと納得し、できることから手をつけてみた。
日本舞踊の稽古は『紙屑屋』や『七段目』などの演目に生きてくるが、私の踊りはどうにもぎこちなくて下手である。
三味線は、楽器の構造こそ理解できたものの、一曲もマスターできなかった。
講釈も少しかじってみたが、しっくり来なかった。
歌舞伎は好きだが、数ヶ月に一度、東劇で観る程度にとどまっている。
そんな中で、俳句だけは違った。やっていて、楽しい。
どうにか続けられているのは、やっぱり「好き」だからだと思う。
昇太師匠の助言で取得した気象予報士の資格とも、俳句は不思議と相性がいい。
俳句は季語を大切にするし、天気予報もまた季節の移ろいを読み解き伝える仕事だ。
空模様とともに移ろう季節感を、言葉にするという点で、通じるものがある。
東京駅の地下にある居酒屋で、長らく句会を開いていた。
この句会に参加しているのはおもに広告関係の方々で、皆さんそれぞれに言葉のセンスがあり、いつも刺激を受ける。
句会というより、気ままな時間をご一緒している感覚だ。俳句を詠むことも楽しいが、お酒を飲みながら皆さんのお話を伺うのがまた面白い。
真打昇進の際には、その句会の皆さんが着物をこしらえてくださった。
嬉しかった。こういうことは、忘れられない。
テレビ番組『プレバト!!』にも、何度か出演させていただいた。
その中で、2024年お正月の特番で優勝する機会をいただいた。
ゴールデンのテレビの特番で若手の落語家が優勝するというのは、なかなか珍しいことかもしれない。
けれど、それ以上に、俳句という好きなことが仕事になり、評価していただけるということが、何よりうれしい。
番組では志らく師匠ともご一緒する。表向きは犬猿の仲ということになっているが、実はリスペクトしている。
落語ももちろんだが、私は師匠の文章のファンでもある。本が好きな私にとって、志らく師匠の著作には敬意を持っている。
思えば私は昔から、一人で落語を稽古したり、噺の構成を考えたりするのが好きだった。
小さい頃から、その点はまったく変わっていない。
俳句も、きっとその延長にあるのだろう。
言葉をひとつひとつ見つめ、吟味し、誰かに届くように選び抜く。
そんな時間に、私はいくらでも熱中できる。
気がつけば、好きなことが少しずつ、私の人生の軸になっていた。