四十路の卒園証書

私は幼稚園から脱走した経験があり、最終学歴は“幼稚園中退”だと冗談めかして話すことがある。子どもの頃から団体行動が苦手で、落語を始めた理由も「一人でできるから」というのが正直なところだった。

嫌なことがあれば、すぐに縁を切って距離を置いてきた。対話をするよりも、ひとりで本を読んだり、勉強したり、稽古したりする時間が何より好きだった。授業を休んで、ひとりで大阪まで「一人ごっつ展」を観に行ったこともある。松本人志さんの「社交的なやつは面白くない」という言葉も、ずっと心に響いていた。

もちろん、人見知りアピールで自分を守っていた部分もあるのだと思う。正直、友だちが多い人を見ると「哲学が浅いな」「記号的な演技をして生きているんじゃないか」なんて思うこともあった。

そんな私だが、今になって「人との繋がりって本当に大切なんだ」と、しみじみ感じている。水道をひねれば安全な水が出る。山手線が定時にやってくる。コンビニがいつでも開いている。どれも、見えないところでたくさんの人が動いてくれているおかげだと、ようやく気づいた。

落語家は、一人でやっているでの、勘違いしやすい。でも、落語会が成り立つのは、支えてくださる方々がいるからこそ。最近やっと、他者への敬意や共感する力の大切さを実感している。今ごろになって「自分がいちばん幼稚だったのかもしれない」と思うこともしばしばだ。
40歳を過ぎて、ようやく、幼稚園を卒業できそうな気がしている。