「プリン買ってこい」

新宿の伊勢丹の近くに、落語ファンの聖地「末廣亭」があります。終戦直後から続く老舗の寄席で、月末には「余一会」という特別な日があるんです。この日ばかりは、普段は一緒の高座に並ばない、落語界のスターたちが大集合。まさに夢のオールスター戦!

そんな日に、僕は立前座として大忙し。師匠方が次々に楽屋に入ってくるので、お茶を出したり、着物を手伝ったり、太鼓を叩いたりと、右へ左へと駆け回っていました。

その時です。
「よう」と一言。迷彩のジャンパーにジーパン姿の、見たことのないけど異様にオーラのある男性が登場。……よく見たら、あの伝説の落語家・立川談志師匠!
楽屋は一気にざわめきます。
談志師匠は、楽屋にいるベテランの師匠に「おい、プリン買ってこい」と命令する。おもしろい。

まさに“伝説級”の存在感でした。

僕はその隅っこで、興奮しつつネタ帳を書いていたのですが、突然——
「おい前座、そこの上着の○×★を取ってくれ」と、師匠が僕に指示。

正直、何のことか分かりません。でも、あの談志師匠に聞き返す勇気はありません。とりあえず、上着のポケットに手を突っ込んでみると——出てきたのはまさかのインシュリンの注射器!

昇「はい、どうぞ!」

談「……これ、インシュリンじゃねぇか!バンダナだよ、バンダナっ!!」

楽屋が一瞬で凍りつく。
「あ、し、失礼いたしましたっ!」と、もう冷や汗ダラダラの僕。

師匠は何も言わずにバンダナを巻いて、その後、なんとサプライズで高座に登場。
談志師匠の名前がめくられた瞬間、会場は地響きのような歓声に包まれました。

……こうして僕は、日本一のレジェンド師匠に「インシュリンを渡す!」という天然ボケをかまし、伝説の現場に立ち会うことができました。

最後に一言だけ——
「談志師匠のツッコミを注射されて、僕の血糖値は一気に上がりました!」