41.らくだ

長屋一の乱暴者・馬(あだ名は“らくだ”)の家を兄貴分の半次が訪ねると、らくだは前夜の河豚に当たって死んでいた。葬式を出したいが金がない。そこへ通りかかった屑屋の久さんを半次が脅して使い走りにする。

まず月番に香典を集めさせ、さらに大家へ「通夜の酒と煮しめ」を強要。断られたら「死骸を担いで来て“かんかんのう”を踊らせる」と言え、と命じる。大家は取り合わないが、半次は本当に久さんに死骸を背負わせ、死体を操って踊って見せる。大家は震え上がり、酒肴を用意する羽目に。
戻ると酒が届いており、半次は久さんに無理やり飲ませる。すると久さんは豹変、弱気が一転して威勢を張り、今度は半次を怒鳴りつけて酒や刺身を集らせる主客転倒。

 

やがて二人は、八百屋からせしめた漬物樽に死骸を押し込み、荒縄で縛って天秤棒で担ぎ、落合の火屋(火葬場)へ運ぶが、道中で樽の底が抜けたらしく中身が消えている。引き返して探すと、願人坊主が酔って高いびき。二人はそれを死骸と誤認して樽に詰め、焼き場へ放り込む。熱さで坊主が飛び出し、「ここはどこだ!?」。「焼き場だ、日本一の火屋(ひや)だ」。坊主はなお寝ぼけて、「うへー、“冷や(ひや)”でもいいから、もう一杯」。

 

死と酒と脅しが渦巻く凄惨な筋立てを、言葉遊びと逆転喜劇で笑いへ裏返す。

酒が弱者の口を強くし、権力(兄貴分)を一時的にひっくり返す。

共同体は嫌われ者の死に冷淡で、弔いも利害と面子で動く。

終盤は「火屋/冷や」の地口で、業の重さを軽口で受け流す落語的達観へ着地。