36.妾馬
江戸の長屋に住む八五郎は、酒と女に弱い遊び人。その妹・鶴は町でも評判の器量よし。
ある日、長屋の大家のもとへ立派な武士が訪ねてくる。駕籠で通りがかった殿様・赤井御門守が、鶴を見初めたというのだ。奉公に上がるという名目だが、実のところは殿の側室。やがて鶴は男子を出産、めでたくお部屋様となり、家中の喜びの的となる。
八五郎は、お屋敷にいくことになるが、貧乏暮らしの八五郎は着る物もない。そこで大家が紋付袴の面倒を見てやり、「言葉の端に“お”をつけて、“奉る”で締めろ」と言い含めて送り出す。
屋敷では八五郎が緊張のあまり、「お八五郎さま、おったてまつる」などと意味不明な挨拶を連発。家臣たちはあきれるが、殿様は「無礼講じゃ」と笑って許す。酒が進むと八五郎はすっかり調子づき、殿様に「困ったときは俺に言いな」と大口を叩き、妹・鶴に向かって「お袋が孫を見たがってた」と涙ぐむ。最後は都々逸をうなり、殿様も大笑い。「面白いやつじゃ、召し抱えてつかわせ」。こうして八五郎は一夜にして侍に出世。長屋の兄妹がそろって玉の輿となる。
庶民の希望:長屋の貧乏兄妹が一気に大名家とつながる痛快さ。
言葉のズレの可笑しみ:「お」「奉る」の誤用による言葉遊びが、庶民と武士階級の文化的断絶をユーモラスに描く。
江戸的人情と夢:どんな身分でも“笑いと愛嬌”が最後には人を動かす。運と誠意がもたらす「世渡りの知恵」。