33.井戸の茶碗

江戸の町を「くずぃ、お払い」と流す正直一徹の屑屋・清兵衛は、裏長屋の娘に呼び止められ、父・千代田卜斎(元は武家、今は清貧)の家で仏像の引き取りを頼まれる。目利きに自信がない清兵衛は「安く買い叩くのは忍びない」と200文で受け、もし高く売れたら差益は折半と約す。

ほどなく細川家中の若侍・高木佐久左衛門が仏像を300文で求めるが、磨くうち台座の紙が破れ、なんと小判50両が現れる。高木は「買ったのは仏像であって中の金ではない」と返還を決意。

屑屋の顔改めを続けて清兵衛を見つけ、50両を託す。だが卜斎は「気付かぬは我が不徳、受け取る筋なし」と突っぱね、清兵衛が持ち帰れば高木も「返すのが道」と受けず、清兵衛は板挟み。

長屋の大家が仲裁し「卜斎二十両・高木二十両・清兵衛十両」を提案するも、卜斎は金そのものを拒む。そこで「商いの形」にと、卜斎は父の形見の古茶碗を“二十両の代物”として高木へ渡し、一件落着。

ところが細川侯がその話に感心し目通りを許すと、目利きが「あれは世に稀なる名器『井戸(の)茶碗』」と断じ、殿は三百両で買い上げる。高木はまたも清兵衛に頼み、半分の百五十両を卜斎へ。卜斎は再び辞退し、相談の末「娘を高木へ嫁がせ、百五十両は支度金に」と決まる。清兵衛が「磨けば見違えます」と娘を評すると、高木は「いや、磨くのはよそう。――また小判が出るといけない。」

 

 

清貧と廉直の循環:三人とも“欲を出さない”。信が縁を結ぶ。

値打ちと値段:古茶碗は“見立て”で名器になる。