24.寿限無
長屋に男の子が生まれた八五郎夫婦。名前を巡って「めでたく長生きでき、食いっぱぐれのない名に」と檀那寺の和尚へ相談に行く。和尚は経文や伝承から縁起のよい語を次々に挙げる――「寿限無(寿命に限りなし)」「五劫のすりきれ(気の遠くなる長い時間)」「海砂利水魚(水の砂利と魚=数え尽くせない)」「水行末・雲来末・風来末(果てしなさ)」「食う寝るところに住むところ(衣食住の充足)」「やぶらこうじ(常緑で実る縁起木)」「パイポ国の王シューリンガンと王妃グーリンダイ、その姫ポンポコピーとポンポコナー(長寿伝説)」「長久命」「長助」……。欲張りな八五郎は「どれも捨て難い、全部つけよう!」と決め、赤子は超・長名に。
名付けののちも騒動は続く。近所の婆さんが名を一息で読み上げて目を回したり、入学式の朝に友達が迎えに来て全名を呼ぶうち当人はまだ布団の中――など、日常の度に家中・町内が巻き込まれる。別伝では、悪戯っ子の寿限無が友達にこぶをこさえ、母親へ訴えに来た友達が「寿限無寿限無五劫の…」と名前を言い終える頃にはこぶが引っ込んでしまう
願いの過剰=笑い:健康・長寿・富・住を一身に込めたい“親心”が、過剰になるほど可笑しい。
言葉の力(呪的リズム):祝詞のような語列が、意味と音の快楽で観客を乗せる。
型と反復:長名の反復が日常の場面(呼ぶ・叱る・届ける)に差し込まれ、毎回ズレで弾ける。
共同体の茶目っ気:長屋総出で見守り・からかい・祝う、江戸の“ご近所喜劇”。