9.強情灸
気短で強情な友人・熊さんがやってくる。
熊さんは「たかが灸で騒ぐな」と意地を張り、片腕に山盛りのもぐさを載せて火をつける。
最初は「小諸出で見りゃ浅間の煙」などと歌い出し、余裕を見せる熊さん。しかし火が下まで回ると猛烈な熱さ。顔を真っ赤にし歯を食いしばって「石川五右衛門は…八百屋お七は…」と、必死に英雄や悲劇の人物を引き合いに出して我慢を装う。
ついには我慢できずに灸を払い落とし、「あぁ冷てぇ」と強情を張りながらも、源さんに「五右衛門がどうした」と問われると、熊さんは「五右衛門もさぞ熱かったろう」と白状する。
「強情(意地っ張り)」の滑稽さ
人間は誰しも「負けたくない」「弱音を吐きたくない」気持ちがある。それが過ぎると、かえって笑いを誘う。
比較のナンセンス
五右衛門の釜茹で、八百屋お七の火刑と、自分の灸を同列に語る誇張が可笑しい。
人情の共感
聴き手は「自分も意地を張って痛い目にあったことがある」と共感する。「意地を張りすぎると滑稽だよ」という人生の教訓も含んでいる。