8.時そば
ある寒い夜、一人の男が屋台の二八そばを呼び止め、注文します。
男は、屋台の名前から出てきたそばの器、汁の味、そばの細さやコシ、具のちくわまで、何から何まで褒めちぎりながらそばをすすります。
食べ終わって勘定。代金は16文。
男は銭を1枚ずつそば屋の手に置いていき「1、2、3、4、5、6、7、8……」と数えたところで、ふと「今何刻(なんどき)だい?」と尋ねます。
そば屋が「九つです」と答えると、そのまま「10、11、12、13、14、15、16」と数えて銭を置き、実際には15文しか払わずに立ち去りました。
その様子を見ていた与太郎。
「なるほど、自分もやってみよう」と翌晩そば屋を呼び止めます。ところが出てきたのは、出汁もまずく、器も欠け、麺は太くて伸びきった不味いそば屋。無理やり褒めて食べ終え、いざ勘定。
「1、2、3、4、5、6、7、8……今何刻だい?」と同じように聞くと、そば屋は「四つです」と返事。
与太郎は「5、6、7、8……」と続けて銭を置いたため、逆に4文多く払ってしまいました。
結局、不味いそばを食べたうえに損までしてしまうという間抜けなオチです。
江戸っ子の洒脱なやり口:一文をごまかすために、会話の調子や褒め言葉で流れを作る「粋」な立ち回り。
「時」をめぐる言葉遊び:江戸時代の「九つ=12時」「八つ=2時」といった時刻の数え方を利用した仕掛け。
対比の笑い:鮮やかに決める最初の男と、それを真似して失敗する与太郎の間抜けさ。
風俗の写し鏡:夜鳴きそば、銭の勘定、江戸の時刻法など、当時の生活文化がそのまま噺の味わいとなっている。
「江戸っ子の洒落たズルさ」と「与太郎のドジ」を対比。