7.粗忽の釘

粗忽(そそっかしい)な大工の亭主。夫婦で引っ越す日に、なんと箪笥を背負ったまま道草ばかりして、やっと夕方に長屋へたどり着く。

女房に「ほうきを掛ける釘を打って」と頼まれ、長さを考えずに瓦釘(24cmもある長い釘)を壁に打ち込んでしまう。長屋の壁は薄いので、隣の家まで突き抜けてしまったらしい。

「すぐに謝ってきな!」と女房に言われたが、あわてて間違えて向かいの家へ。世間話を始めてしまい、隣に謝りに行くのをすっかり忘れてしまう。やっと隣家へ行ってみると――

なんと釘は仏壇の阿弥陀様の頭の上に突き出ていた。
驚いた亭主、「こりゃあ、毎日ここへ来て、ほうきを掛けなきゃならねぇ!」

粗忽者の人間喜劇

やることなすこと早とちり。向かいの家に行って世間話を始めてしまう。

人の良さと憎めなさ

迷惑をかけても悪気がない。お人よしで憎めない性格。

落語的リアリティ

「長屋の壁は薄い」「仏壇に釘が出る」という江戸庶民の生活感が舞台装置。

サゲの妙味

釘が仏壇に突き出るだけでも大騒ぎなのに、「毎日ここへほうきを掛けに来る」という発想の飛躍。


粗忽者の失敗を通じた「人間の愛すべきおっちょこちょいさ」。