4.親子酒
ある商家の旦那(父)と若旦那(息子)は大の酒好き。だが飲みすぎては失敗し、後悔ばかりしている。さすがにこれでは身代に関わると、親子で「禁酒」を誓い合う。
数日後、若旦那が外回りに出かけた後、旦那は家で婆さんと二人きり。退屈で仕方がなく、やがて酒が恋しくなり「寒気がするから温まるものが欲しい」とそれとなく切り出す。婆さんは「葛湯にしましょうか」と言うが、旦那の狙いはもちろん酒。禁酒を思い出させられてはねつけられるも、拝み倒して「一本だけ」と言い張り、ついに酒を出させる。
ところが一杯飲めば二杯、三杯と止まらない。結局、旦那はすっかり出来上がってしまう。
そこへ外回りから若旦那が戻ってくる。しかもべろべろに酔っている。慌てて酒を片づけ、形だけ取り繕う旦那だが、二人は向かい合って座り込む。
旦那が「なぜ禁酒の約束を破ったんだ」と問い詰めると、若旦那は「得意先で酒をすすめられたが、父との約束だから断った。しかし“飲まぬなら出入り禁止だ”と脅され、それでも突っぱねたら“よく言った、その心意気に乾杯だ”と褒められ、結局一緒に三升も飲んでしまった」と言い訳。
酔いの回った旦那の目には、若旦那の顔が幾つにも見える。「こんな化物に身代は譲れねえ」と突っぱねると、若旦那も「俺だってこんなぐるぐる回る家はいらねえ」と返す。
◆ 『親子酒』は、親子そろって酒好きの性(さが)に負ける可笑しさを描いた滑稽噺です。
親子の対称性
「息子は外で」「父は家で」、それぞれ禁酒を破る場面が対になっていて、噺の構造そのものが笑いを生みます。
人間の弱さ
「一杯だけ」という言い訳が雪だるま式に膨らむ様子は、現代にも通じる人間のだらしなさ。
酔いの滑稽さ
酔った二人が互いを責め合うが、どちらも同罪。酔眼で顔が「七つに見える」などの誇張表現が、酔っ払い落語ならではの可笑しさです。
オチの反転
「身代は譲れねえ」「こんな家はいらねえ」と、親子がそろって本末転倒なやり取りをする。
酒は飲んでも飲まれるな”という普遍的なテーマを、親子のやり取りに重ねて笑いに変えた。人間の弱さを笑い飛ばす。