3.初天神
父親の八五郎が、正月の初天神に参拝へ出かけようとすると、女房から「息子の金坊も連れて行っておくれ」と言われる。だが八五郎は「金坊はあれ買ってくれ、これ買ってくれとうるさいから嫌だ」と渋る。
そこへ金坊が帰ってきて「今日は何も買ってくれって言わないから」と必死に頼みこみ、女房も加勢するため、しぶしぶ連れて行くことになる。
道中、八五郎は「何か買ってくれと言ったら川に放り込むぞ」「河童にかじられるぞ」などと脅すが、金坊に論破されてしまう。やがて参道の店が増えてくると、金坊は「今日はいい子だったご褒美に」と結局おねだりを始める。
飴屋では1つだけ買ってもらい「虫歯になるから噛むな」と注意されるが、理由をごまかす親父の心を見透かすように言い返す。団子屋では蜜のついた団子を欲しがり、八五郎はこっそり蜜壺に団子を浸して渡すが、金坊も真似して団子を蜜壺にドボン。
最後に凧をねだられ、結局買わされる。広場で凧揚げを始めると、今度は八五郎が夢中になってしまい、金坊が「こんなことならおとっつぁん連れて来るんじゃなかった」とオチをつける。
◆ 『初天神』は、親子のやり取りをユーモラスに描いた古典落語の代表作です。
子ども vs 親の知恵比べ
無邪気で駄々っ子な金坊と、子どもを叱りながらも甘くなってしまう八五郎。子どもの理屈に翻弄される父親の姿は、現代の親子にも通じます。
親子の愛情
親は「困った子だ」と言いながらも結局は買ってしまう。子は「バカな父親」と言いながらも、やっぱり父と一緒にいるのが嬉しい。そんな親子の微笑ましさが根底に流れています。
観客が共感できる“日常”
「子どもにせがまれて根負けする親」という普遍的な日常が題材なので、難しい知識がなくても笑えます。だから落語初心者にも人気が高い演目です。
ラストの反転
散々子どもに振り回された父親が、最後は自分が凧揚げに夢中になってしまう。ここで立場が逆転し、観客に爽快な笑いを与えます。
「子どもに振り回されながらも、結局は親も同じくらい子どもっぽい」という、人間の可笑しさと温かさ。