20.つる
八五郎(はっつぁん)が、いつものようにご隠居の家へ遊びに行きます。ご隠居というのは、町内でも物知りで世間話や昔話をいろいろと教えてくれる年寄りのことです。
この日も他愛ない話をしているうちに、話題は「鶴(つる)」に。
八五郎が「この前、床屋で鶴の掛け軸を見たんですよ。で、誰かが『鶴は日本の名鳥だ』って言ってましたけど、なんで鶴が名鳥なんですか?」と尋ねます。
ご隠居は「それはな、日本には『松』という名木があるだろう。その松に鶴はよく似合うから名鳥と呼ばれるんだ。花札にも描かれてるしな」と説明します。なるほどと納得した八五郎。
すると今度は「じゃあ、なんで『つる』って名前なんです?」と質問します。
ご隠居は、ちょっとした冗談を交えて答えます。
「昔の話だ。唐土(もろこし=中国)の方から首長鳥(くびながどり)が飛んできた。最初にオスが『ツーッ』と鳴いて飛んできて浜辺の松に止まった。続いてメスが『ルーッ』と鳴いて飛んできた。そこで人々が『ツー、ルー、ツル』と言うようになったのさ」
八五郎は「これは面白い!」と思い込みます。人をだましてやろうと、この話を友だちに披露することにしました。
さっそく熊(熊さん)の家へ行き、得意げに話し始めます。
「いいかい、昔、首長鳥のオスがツルーッと飛んできて……ん? あれ?」
肝心なところを忘れてしまい、話が続けられません。結局、あきれた熊に追い返され、またご隠居の家へ戻ることになります。
ご隠居は「だから言ったろう、あんなの冗談だから人に話すもんじゃないよ」と止めますが、八五郎はどうしても話したくてもう一度説明を聞き出します。
今度こそ忘れまいと熊のところへ再挑戦。
「最初にオスがツーッと飛んできて、松にルッと止まった。あとからメスが……」
ところが、やっぱり続きが思い出せない。
熊が「メスがどうしたんだよ?」と聞くと、八五郎はしどろもどろになって、「……黙って飛んできた」
「知ったかぶり」が笑いの中心。
→ せっかく仕入れた知識を誇らしげに披露しようとするが、うろ覚えで結局ボロを出す。
隠居の蘊蓄(うんちく)と軽口が噺のスパイス。
→ 名鳥・名木の説明から始まり、由来話がくだらない駄洒落へ
人情やドラマ性は薄く、小噺的な軽妙さが特徴。