11.金明竹
舞台は江戸の骨董屋さん。店主のかわりに小僧(与太郎や松公と呼ばれることもある)が店番をしています。ところがこの小僧、とても素直すぎて、ものごとの意味をそのまま受け取ってしまうのです。
あるとき急な雨が降り、通りがかりの人が「雨宿りに軒先を貸してくれ」と頼みます。普通なら「少しいさせてください」という意味ですが、小僧は「軒を持って行かれる」と勘違い。「軒は貸せませんが、傘なら」と言って、店主が大事にしていた新品の傘を渡してしまいます。
それを聞いた店主は「そんな時は『貸し傘は長雨でみんな壊れて、物置に放り込んである』と断るんだ」と教えます。
次に、向かいの家の人が「ネズミ退治に猫を貸してほしい」とやってきます。すると小僧はさっきの断り方をそのまま応用して「猫はバラバラになって、物置に放り込んである」と答えてしまい、大恥。店主に再び叱られます。さらに別の人が「旦那の顔を貸して」と来ると、小僧は「旦那は、またたびを舐めさせて、寝かせてある」と言ってしまう。
店主が近所へ弁明に出かけたあと、店に現れたのは上方(関西)から来た商人風の男。強いなまりと早口で、骨董品や道具のことを専門用語だらけでまくしたてます。「祐乗・光乗・宗乗の三所物」「備前長船の則光」「のんこうの茶碗」「黄檗山金明竹の花活け」「古池や蛙飛びこむ水の音の掛け軸」「兵庫の坊さんが好む屏風」……。
小僧は意味がわからず、ただ「よくしゃべるなあ」と面白がり、おばさん(店主の妻)を呼びます。しかしおばさんもチンプンカンプン。何度も繰り返し説明させるうち、商人はくたびれて帰ってしまいます。
やがて店主が戻り、妻に「誰が来た?」と尋ねると、妻は聞き間違いだらけの珍回答。「遊女を孝女にして」「寸胴切りにした」「たくあんとインゲン豆ばかり食べて」「古池に飛び込んだ」など、全く要領を得ません。
「弥市が古池に飛び込んだ!? あいつには道具を買う金を渡してあるんだが、それを買ったのか?」と店主が詰め寄ると、妻は最後にこう答えます。
「いいえ、買わず(蛙)でございました」
言葉のすれ違いから生まれる笑い:「軒を貸す」を字義通りに受け取る。
断り方をそのまま別の場面に当てはめてしまう。
関西弁や専門用語を聞き取れず、意味不明な伝言になる。→ 人間の“言葉への理解不足”が笑いの根っこ。
繰り返しのリズム:同じパターンを何度も繰り返すことで面白さが増す。