10.不精床
ある男が通りがかりに、ガラガラに空いた床屋に入ったのが運の尽き。
「空いてますか?」 → 「見りゃ分かるだろ」
「いい男にしてくれ」 → 「無理だ」
と親方は無愛想で素っ気ない。
頭を湿らせようにも「うちは水か唾(つば)だ」と桶のボウフラだらけの水を勧める始末。
さらに、親方は「小僧に練習させる」と言い出し、十歳の小僧がガタガタのカミソリで顔を剃ることに。客は冷や汗ものだが、親方は「耳を切り落としても犬が食っちまうから大丈夫だ」と恐ろしいことを言う。
しまいに、犬が入ってきて「チンチン」まで始めると、親方は「そんなに欲しいか。じゃあ、この人に頼んで耳をやろう」と言い出す。
不精・不親切な床屋の極端な姿を笑いにした滑稽噺。
聞き手は「こんな床屋は嫌だ」と共感しつつ、「それでもどこか憎めない床屋と小僧」に笑わされる。
「不精の極み」と「客商売の裏返し」 。