ちょっと違うな

「柳田格之進」という噺は、私にとって特別な一席である。
隅田川馬石師匠から稽古をつけていただき、そこに山本進先生の温かな手が加わって、物語の芯に静かで確かな光が宿った。真打昇進の際にも、この噺で高座に臨んだ。まさに、勝負の一席だった。

のちに、千葉テレビ『お茶の間寄席』で放送された。すると、しばらくして近所の鯨屋の大将がわざわざ演芸ホールを訪れ、声をかけてくださり、ご祝儀袋を置いていかれた。
「芸人に鯨屋さんから祝儀とは珍しい」と、まわりの誰もが驚いた。もちろん、私にとっては嬉しい出来事だった。

その後、馬石師匠が浅草演芸ホールでトリを取ることになった。すると、ホールの偉い方が「昇吉くんの柳田は、馬石師匠に習ったそうですね。ぜひ師匠も、トリでやってください」とリクエストされたという。

師匠は客席の期待を背負いながら、『柳田格之進』を堂々と演じきった。
そして舞台を終えるとすぐ、ホールの偉い人に感想を聞きにいったそうだ。
すると、その方はにこやかに――「うーん、ちょっと違うなあ」と。

……そう言われたそうである。
もちろん冗談交じりだったのだろうが、こういう話もまた、芸の世界の味わいのひとつである。

この噺の核心は、碁と冤罪だ。碁の部分をよりいきいきと描ければと、いまでも研鑽している。