甕
落語の世界では、「なまじ学問がないほうがいい」なんて価値観が、いまだに現役バリバリです。「人生、九九とあみだくじができれば十分」みたいな空気すら流れています。
そんな世界に、落語史上初の「東大卒」として飛び込んだ僕。
入門したての頃、師匠や先輩方に言われたことは――
「東大を出てお茶も入れられないのか」
(関係ないだろ。ちなみに、家ではもっぱらティーバッグです)
「勉強ができても、楽屋で気が遣えないやつはダメだ」
(そういうあなたは、多様な人生観に対する敬意が薄い)
自分から「高座で私は東大卒です」とアピールしたことはありませんが、師匠や先輩が「今出てきた昇吉君は東大卒でして」と余計なことを言うことも…。
要するに、落語界で東大卒は“プラス”どころか“マイナス”からのスタート。
でも、唯一役立ったのが「ネタ帳」。
落語の演目、「蒟蒻問答」「饅頭怖い」「道灌」「狸賽」――難読漢字パレード!これ、サクサク漢字で書くと、師匠方から「お前、すごいな」って褒められます。
(実際は、「読み仮名 グーグル先生」ですけどね)
中でも「肥甕(こえがめ)」は、他の人が「肥がめ」と書く中、僕だけ「甕」と書いて自己満足の頂点へ。
ちなみに、僕は字をきれいに書くのが趣味。
「圓生師匠は綺麗な字が好きだったから、君もハマっていたかもしれないね」と言われ、一瞬、有頂天になりました。
寄席で、「甕」と書いて自己満足する。ただそれだけです。