『牡蠣礼讃』
『牡蠣礼讃』
文春新書 542
畠山重篤
本書は、牡蠣の養殖・食文化・歴史・環境との関係を多角的に考察した一冊である。牡蠣の生態や養殖技術の発展、環境との深い関わり、「森は海の恋人」運動の意義が詳しく述べられ、持続可能な漁業の視点からも示唆に富む内容となっている。また、日本の養殖技術が海外に影響を与えた歴史や、国ごとの牡蠣の食文化の違いも興味深い。さらに、牡蠣料理の魅力や美味しい食べ方にも触れられ、読後には牡蠣を味わいたくなること間違いなし。単なるグルメ本ではなく、環境・経済・文化と結びついた知的好奇心を刺激する一冊であり、牡蠣好きはもちろん、幅広い読者におすすめできる。
1. 牡蠣の文化・歴史・生態系への貢献
• 単なる食材としてだけでなく、環境や文化、歴史との関わりを広く扱っている。
• 胡粉(貝殻を原料とした顔料)を通じて、日本画とも関連がある。
2. 「Rのつかない月は牡蠣を食べるな」という欧米の諺
• 欧米では「May(5月)~August(8月)」は牡蠣の産卵期にあたり、味が落ちるため生まれた言い伝え。
• 日本では必ずしも当てはまらず、イワガキのように初夏(5月~8月)が旬の牡蠣も存在する。
3. 牡蠣の環境浄化機能
• 牡蠣は1日に大量の海水をろ過し、水質浄化に貢献するバイオフィルターの役割を果たす。
• 二酸化炭素(CO₂)を炭酸カルシウム(CaCO₃)として固定化し、温暖化対策にも寄与。
4. 食中毒と衛生基準の変遷
• 戦後、生食消費の多いアメリカの衛生基準が日本にも導入され、生食用牡蠣の養殖海域が厳しく管理されるようになった。
• 牡蠣は内臓ごと食べるため、水質汚染が食中毒リスクに直結する。