28.狸札
子どもに石を投げられていた子狸を、通りすがりの八五郎が助ける。穴へ戻った子狸は親に「恩は返せ」と叱られ、夜更けに八五郎の長屋へ礼に来る。八五郎はちょうど困窮のまっ最中。翌朝、織物屋が集金に来るが、手元に金はない。子狸が「何でも化けます」と言うので、「四円五十銭を拵えてくれ」と頼む。子狸は「一円札を五枚は難しい、五円札一枚なら」と化けるが、最初は札が大きすぎたり毛が生えていたり、畳むな回すな逆さにするなと注文がやたら多い“生きた札”。八五郎はお膳にそっと置いて待つ。やがて織物屋が来る。新品同然の五円札を差し出し、「お釣りはいらない、丁重に扱って」と釘を刺す。織物屋は眉をひそめ、陽に透かし、引っ張り、やっと懐の財布へ。八五郎は胸を撫でおろすが、「押しつぶされて苦しいだろう」と子狸の安否が気にかかる。まもなく表口から子狸が転げ込む。「がま口に畳まれて息が詰まり、耐えかねて財布の底を食い破って逃げました」と息せき切って報告。さらに懐から札を三枚取り出し、「ついでに中にあった一円札をお土産に」。
恩と算段:助けた善意が“札に化ける”現実的効用へ転換。情と損得の共存が江戸的。
信用の可笑しみ:紙切れ=信用が、字義通り“息をする”。透かし・畳み・懐で生死が左右される滑稽。
化ける=価値が移る:狸→貨幣。名目と実体のズレを笑いにするメタ貨幣噺。
