“スラスラ”じゃなく“チャーミング”
僕が「落語家になってよかったなあ」と感じる瞬間はいろいろありますが、その中でも忘れられないのは、志の輔師匠の舞台を袖で見せていただいたときのことです。
場所はパルコ劇場。三時間、まさに志の輔師匠の独壇場。袖で見ている僕も、ただただ圧倒されて、鳥肌が立つばかりでした。「落語って、こんなにすごいんだ」と、改めて実感した時間でした。
終演後の打ち上げ。緊張しながらも参加していると、志の輔師匠がふいに「昇吉君、頑張ってるね」と声をかけてくださったんです。嬉しさで胸がいっぱいになったそのとき、不意に師匠がこんなことを。
「この前、“タイムショック”に出てたでしょ?」
まさか志の輔師匠がテレビを見てくださっていたとは思わず、びっくり。さらに続けて、「よくあんなにスラスラ答えられるねえ」と褒めてくださった……と思ったら、すぐさまアドバイスが。
「落語家なんだから、答え方も落語家らしく、チャーミングにいかなきゃダメだよ。宮崎美子さんみたいにさ、愛嬌で勝負しなきゃ」
その言葉に、僕はなるほどと大きくうなずきました。知識や正解を出すだけじゃなく、「この人が答えると、なんだか楽しい」――そんなふうに思ってもらえる落語家になりたい。そう強く思った出来事でした。